2015年7月10日金曜日

外国語を学ぶ目的を考える。<ゲーテの名言>


Wer fremde Sprachen nicht kennt, weiß nichts von seiner eigenen.
- Johann Wolfgang von Goethe

外国語が分からない者は、母国の言葉についても分かっていない。

 今回もゲーテの言葉を引用します。

 ここ数年で、世界を舞台にして戦おうと、英会話を習う人が増えています。
「英会話」という表現からもわかるように、多くの人は外国語学習の動機づけを「自分が言いたいこと」を外国語で言いたいという方向に持っていくと思います。英語が話せれば、世界中にコミュニケーションをとれる相手が増える、と。僕自身ドイツ語という外国語を専攻した理由の一つは「話せるようになること」で、会話できてこそその言語を身につけたと言えると、ずっと考えていました。

 この僕の考えを変えたのは、『街場の文体論』という本の中での内田樹さんの言葉でした。
「外国語の学習というのは、本来、自分の種族には理解できない概念や、存在しない感情、知らない世界の見方を、他の言語集団から学ぶこと」である。
「外国語というのは、自己表現のために学ぶものではないんです。自己を豊かにするために学ぶものなんです。自分を外部に押しつけるためではなく、外部を自分のうちに取り込むために学ぶものなんです。」

 つまり、自由に日常会話が出来るようになることだけではなく、外国の言葉を通じてより多くのものを自分の中に吸収することも、外国語を学ぶ目的だと内田さんは言っています。自分の言葉にすると本来の意図が崩れてしまいそうなので、内田樹さんの言葉をもう少し引用します。

「理解できない言葉、自分の身体のなかに対応物がないような概念や感情にさらされること、それが外国語を学ぶことの最良の意義だと僕は思います。浴びるように「異語」にさらされているうちに、あるとき母語の語彙になく、その外国語にしか存在しない語に自分の身体が同期する瞬間が訪れる。それは、ある意味で、足元が崩れるような経験です。自分が生まれてからずっとそこに閉じ込められていた「種族の思想」の檻の壁に亀裂が入って、そこから味わったことのない感触の「風」が吹き込んでくる。そういう生成的な経験なんです。外国語の習得というのは、その「一陣の涼風」を経験するためのものだと僕は思います。「英語ができると就職に有利」といった「手持ち」の理由で外国語を学ぶ人たちは、どれほど語彙が増えても、発音がよくなっても、自分の檻から出ることはできない。」
 
 この考え方に、僕はすごく刺激されました。外国語を学べば、単純に考えて、何かを知ろうとするときの情報源が増える。自分の心を揺さぶるような言葉や考えに触れるチャンスも増える。そう考えただけでワクワクしてきました。これからもドイツ語を学んでいこうという意欲が湧いてきました。日本にいて日本語で表現される言葉に囲まれているだけでは絶対に出会えることのできない世界を経験できる可能性があるんだと。これは、今までのように「話せるようになること」を目標においていたのでは、どれだけ語学を勉強しても達することのできない世界だと思います。

 ここで、冒頭で引用したゲーテの名言に戻ります。内田さんは、外国語を「自己を豊かにするために学ぶもの」と表現しました。母国語以外の言葉を通じて自分の中に取り込むものが、その人を豊かにしてくれる。ゲーテは、外国語を学んでこそ、誰もが当たり前のように使っている母国語も分かるようになるのだと言っています。


 この二人の言葉に、外国語を学んでいる一人としてとても刺激をうけました。語学そのものだけでなく、自分自身の考えの幅を広げていくことこそ、外国語を学んだ先の目的であるべきです。
 もちろん、ただ刺激されたというところで終わっていけない。「自己を豊かにする」ものを求める意識を常に頭において、ドイツ語にひたすら触れていきたいと思っています。そして、「自分だけではもったいない」、「ドイツ語を読むことができない日本の人たちにも知ってもらいたい」と思える言葉や考えに出くわしたとき、仲介役としてより多くの人に伝える。他にも数えきれないほどの選択肢があるなかで、たまたまドイツ語という言葉を学んでいる。この偶然を生かして、自分自身、また周りの人も豊かにする意識でドイツ語の勉強を続けていきます。

 「会話できるようになる」、「お気に入りの小説や映画をオリジナルの言語で楽しみたい」。外国語を学ぶ目的は人それぞれだと思います。目的がはっきりしていないと、なかなか勉強を継続できません。この記事が、外国語学習者のよい刺激になってくれると幸いです。

 今回は、内田樹さんの言葉をもとにして、自分なりに考え、書きました。内田さんのように、人を刺激し、立ち止まって考える機会を提供するような言葉を紡ぎ出せる存在を目指そう。改めてそう思いました。

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