2015年7月28日火曜日

3冊目『星の王子さま』ドイツ語版を読む〜「大切なものは目に見えない」〜

 ドイツ語の本100冊読破に向けた3冊目は、『Der kleine Prinz』。『星の王子さま』のドイツ語訳版です。大学の授業で読んだこともあったのですが、本屋で偶然見つけたのでもう一度読んでみました。日本語で読んだ人は多いのではないでしょうか。大人が忘れがちな、物事の本質を突く名言がたくさん詰まっている小説です。

 以下で、心に響く言葉たちをドイツ語と日本語の両方で引用します。



   Man sieht nur mit dem Herzen gut.  Das Wesentliche ist für die Augen unsichtbar.
 
「心で見なくちゃ、ものごとはよく見えないってことさ。かんじんなことは、目に見えないんだよ。



  Die Menschen haben keine Zeit mehr, irgend etwas kennenzulernen. Sie kaufen sich alles fertig in den Geschäften. Aber da es keine Kaufläden für Freunde gibt, haben die Leute keine Freunde mehr. 

   「人間たちはもう時間がなくなりすぎて、ほんとうには、なにも知ることができないでいる。なにもかもできあがった品を、店で買う。でも友だちを売っている店なんてないから人間たちにはもう友だちがいない。」



  Wenn du zum Beispiel um vier Uhr nachmittags kommst, kann ich um drei Uhr anfangen, glücklich zu sein. Je mehr die Zeit vergeht, um so glücklicher werde ich mich fühlen. Um vier Uhr werde ich mich schon aufregen und beunruhigen; ich werde erfahren, wie teuer das Glück ist.   

 「きみが夕方の四時に来るなら、ぼくは三時から嬉しくなってくる。そこから時間が進めば進むほど、どんどん嬉しくなってくる。そうしてとうとう四時になるとそわそわしたり、どきどきしたり。こうして、幸福の味を知るんだよ。」



Sie (die Kinder) wenden ihre Zeit an eine Puppe aus Stoff-Fetzen, und die Puppe wird ihnen sehr wertvoll, und wenn man sie ihnen wegnimmt, weinen sie ...

 「子どもたちは、ぼろきれのお人形に時間を費やす。だからそのお人形はとっても大事なものになる。それで、とりあげられると泣くんだね。」



  Die Leute schieben sich in die Schnellzüge, aber sie wissen gar nicht, wohin sie fahren wollen.

 「人間はね、急行列車で走りまわっているけれど、何を探しているのか自分でもわかっていない。」


   Und dabei kann man das, was sie suchen, in einer einzigen Rose oder in einem bißchen Wasser finden...

 「探しているものは、たった一輪のバラやほんの少しの水の中にも見つかるはずだ。」









2015年7月27日月曜日

二冊目 幸せの秘密を求めて旅に出る精神科医の話(『Hectors Reise oder die Suche nach dem Glück』 von François Lelord

 目標の100冊に向けて、二冊目を読み終えました。


Hectors Reise oder die Suche nach dem Glück
  von François Lelord 


<あらすじ> 


 この小説の主人公はある一人の精神科医。小さいメガネをかけた姿からは、その頭の良さがうかがえる。患者に対して常に興味を示し、いつも考え深げな顔つきで話に耳を傾ける。そんなヘクターはいわゆる優秀な精神科医だが、自分自身に満足できずにいた。その理由は、自分の力で人々を幸せにできないもどかしさ。そこでヘクターは、“幸福の秘密”を探るべく、世界を旅する決心を固める。彼はその旅の中で出会う人たちにある一つの質問を投げかける。「あなたは幸せですか?」なぜ人間は常により幸せな人生を夢みるのだろう?幸福は、仕事での成功にかかっているのか、それともプライベートの充実が幸福をもたらすのか。幸せは、環境が生み出すものか、それとも私たちのものの見方か。幸せという形のないものの秘密を求めての旅路の果てに、ヘクターは23の答えを導きだし、真の幸せを見つけることは多くの人が思うほど難しくないことに気がつく。



 ヘクターが見つけた23の答えのうちのいくつかを紹介します。「幸せ」について考えさせられる、よい言葉ばかりです。



  Vergleiche anzustellen ist ein gutes Mittel, sich sein Glück zu vermiesen.「比べることが、幸せを台なしにする。」
 

 Glück kommt oft überraschend.「幸せは突然やってくる。」

 Viele Leute sehen ihr Glück nur in der Zukunft.「多くの人は、幸せを未来にしか見ない。」


  Manchmal bedeutet Glück, etwas nicht zu begreifen.「ときに、“何かがよく分からない”ことが幸せになりうる。」

  Es ist ein Irrtum zu glauben, Glück wäre das Ziel.「幸せになることがゴール、という考えは間違っている。」

  Glück ist, mit den Menschen zusammen zu sein, die man liebt.「幸せとは、愛する人たちと共に過ごす時間である。」


  Glück ist, wenn es der Familie an nichts mangelt.「家族に何も不足がないとき、人は幸せを感じる。」

 Glück ist, wenn man eine Beschäftigung hat, die man liebt.「心から好きだといえる仕事を持っているのなら、それは幸せである。」

Glück ist, wenn man spürt, daß man den anderen nützlich ist.「他の人の役に立っていると感じられたとき、人は幸せである。」

 Glück ist, wenn man dafür geliebt wird, wie man eben ist.「ありのままの自分が愛されること。それが幸せである。」

 Glück ist, wenn man sich rundum lebendig fühlt.「生き生きとした人や空気に囲まれているとき、人は幸せを感じる。」

 Glück ist, wenn man richtig feiert.「何かを盛大に祝うとき、人は幸せを感じる。」

 Glück ist, wenn man an das Glück der Leute denkt, die man liebt.「愛する人にとっての幸せを想うとき、人は幸せを感じる。」

Glück ist eine Sichtweise auf die Dinge.「幸せは、それはその人のものの見方である。」




 精神科医であるヘクターは、彼の元を訪れる患者たちを幸せにしてあげられないもどかしさに悩み、そもそも「幸福」とは何かという問いへの答えを見つけるべく、世界中を旅します。ヘクターの旅についていく中で、自分にとっての幸せについて改めて考えることのでき、一気に読んでしまいました。この小説はフランス人作家による作品で、残念ながら日本語訳はされていないようです。

 上に挙げたそれぞれの言葉を見るだけでは、それほど特別なことを言っているようには思えないかもしれません。ヘクターが、旅の中でこれらの真実に気づく過程こそがこの本の面白さです。ドイツ語を勉強中の人は、是非手にとってみてほしいです。シリーズもので続編があるようなので、近いうちに読みたいと思います。


 ※ちなみにこの本は、フランクフルトにあるOxfam-Buchshopという古本屋さんで偶然見つけました。(http://www.yelp.de/biz/oxfam-buchshop-frankfurt-am-main) 
 読み終えた人たちからの寄付で成り立っている本屋さんで、収益は発展途上国の子どもたちのために使われるようです。これからもときどき足を運びたいと思います。

2015年7月25日土曜日

一冊目『MOMO』/ Michael Ende

 ドイツ語の本100冊読破という目標にむけての、記念すべき第一冊目は『MOMO』/ Michael Ende (『モモ』/ミヒャエル・エンデ)。
 岩波少年文庫より日本語版も出版されているので、読んだことがある人もいると思います。児童文学ながら、大人が読んでもいろいろと考えさせられる良い作品です。僕自身、去年(21歳)日本語版を初めて手に取り、中心テーマである「時間」について考えさせられながら読みました。
 この本の中でとくに好きな場面があります。それはストーリーの序盤、道路掃除屋のベッポが自身の仕事のやりかたについてモモに語りかける部分です。(ドイツ語を引用しますが、とくに勉強中でない方は読み飛ばしてください。)

 Während er sich so dahinbewegte, vor sich die schmutzige Straße und hinter sich die saubere, kamen ihm oft große Gedanken. Aber es waren Gedanken ohne Worte, Gedanken, die sich so schwer mitteilen ließen wie ein bestimmter Duft, an den man sich nur gerade eben noch erinnert, oder wie eine Farbe, von der man geträumt hat. Nach der Arbeit, wenn er bei Momo saß, erklärte er ihr seine großen Gedanken.  Und da sie auf ihre besondere Art zuhörte, löste sich seine Zunge und er fand die richtigen Worte.
 "Siehst du, Momo", sagte er dann zum Beispiel, "es ist so: Manchmal hat man eine sehr lange Straße vor sich. Man denkt, die ist so schrecklich lang; das kann man niemals schaffen, denkt man."
 Er blickte eine Weile schweigend vor sich hin, dann fuhr er fort: "Und dann fängt man an, sich zu eilen. Und man eilt t immer mehr. Jedes Mal, wenn man aufblickt, sieht man, dass es gar nicht weniger wird, was noch vor einem liegt. Und man strengt sich noch mehr an, man kriegt es mit der Angst, und zum Schluss ist man ganz außer Puste und kann nicht mehr. Und die Straße liegt immer noch vor einem. So darf man es nicht machen."
 Er dachte einige Zeit nach. Dann sprach er weiter: "Man darf nie an die ganze Straße auf einmal denken, verstehst du? Man muss nur an den nächsten Schritt denken, an den nächsten Atemzug, an den nächsten Bäsenstrich. Und immer wieder nur an den nächsten."
 Wieder hielt er inne und überlegte, ehe er hinzufügte: "Dann macht es Freude; das ist wichtig, dann macht man seine Sache gut. Und so soll es sein."
 Und abermals nach einer langen Pause fuhr er fort: "Auf einmal merkt man, dass, man Schritt für Schritt die ganze Straße gemacht hat. Man hat gar nicht gemerkt wie und man ist nicht außer Puste." Er nickte vor sich hin und sagte anschließend: "Das ist wichtig."


 道路掃除という仕事を想像してみてください。
 早く終わらせようと、ほうきで地面をひたすら掃く。しばらくして前を見ると、道路にはまだまだ続きがある。まったく進んでいないような気がして途方にくれる。人によっては、そういう仕事かもしれません。
 でもベッポは違います。急ぐことなく、一歩一歩、ゆっくりと確実に進みます。先に続く道を見ると、まだこんなに先は長いのか、いつになったら終わるのだろうかと不安になってしまう。道路全体を一気にきれいにしようとするのでなく、次の一歩、次の一掃きだけを考える。一歩進んだら、目の前の道をきれいにすることに集中する。すると、いつの間にか先も見えてくる、後ろにはきれいになった道路が広がる。
 これがベッポの掃除の仕方です。何をするにしても、目の前の課題だけを考え、ゆっくりと、でも確実に終わらせてから次に進む。できるだけ早く、できるだけ多くの作業をこなす人が評価されるようになっている現代社会の中、ベッポのような生き方・働き方をしたいと、この場面を読んでいて感じました。


 まずは一冊目。ドイツ語の勉強という目的だけでなく、本を通じていろいろと感じ、考えながら100冊を目指したいと思います。
 

2015年7月24日金曜日

翻訳者を目指します!

 以前の記事でも書いたのですが、外国語を学ぶ目的について、とくにドイツに渡ってきてからよく考えるようになりました。
 「ドイツ語を勉強してきたけど、これは何のためだろう?」と何度も自問しました。
 いろいろと考えた結果僕が出した答えは、「会話できるようになること」ではなく、「新たな知識や考えを学ぶこと」であり、またその得たものを「より多くの人に伝えること」です。大学でも4年間ドイツ語を専攻し、卒業後今年の4月からドイツで暮らしていますが、自分の考えを自由にドイツ語で表現できるレベルにはまだまだ達していません。ただ、「読む」力に関しては、大学時代に大量のドイツ語の記事を読んで卒業論文を書いた経験もあり、確実に成長を感じています。ドイツ語を勉強してきたからこそ出会える文章に、心を動かされることもよくあります。そしてこのブログも、「心を動かす言葉」をテーマに始めました。
 ドイツ語を通じて「学んだものを伝える」。この考えに至ったときから、もちろん”翻訳”も頭の中には浮かんでいました。インターネットで、翻訳者を募集する会社も探しました。ただ、翻訳者になるにはまず実績が求められることも多く、大学で勉強したとはいえ翻訳は全くの未経験である僕は、なかなか仕事を見つけられないまま、現在に至ります。
 このまま何となくドイツ語を勉強していても、周りから見ればいつまでも未経験のまま、「学んだものを伝える」こともできない。とはいえ、何から手をつけていいのか分からずに、もやもやしていたとき、次の言葉に出会いました。



   Erfahrung ist nicht das Album der Vergangenheit, sondern die Landkarte für die Zukunft.  -Bernd Thye 

 「経験とは、過去を振り返るアルバムではない。未来への地図だ。」


 
 過去に経験があれば、今の自分が認められるのかもしれない。だけど、今ないものはない。だったら、先を見据えて、自分の未来へとつながる経験を積んでいくしかない。
 翻訳の仕事が見つからないのが現状なので、とにかく今はこつこつと努力を重ねることしかできません。
   新聞や雑誌にも積極的に目を通したいと思います。
 このブログではこれから、日本語を含めた「心に響く言葉」の紹介に加え、ドイツ語読書記録も兼ねて読んだ本から得たものや考えたことを綴っていくことにします。
 また、日本という国がドイツではどう取り上げられているのか、日本とドイツの文化や習慣の違いなどについても、現地で暮らしているという点を生かして伝えていきます。
 



 



2015年7月22日水曜日

「人間の宝物は言葉だ。一瞬にして人を立ち直らせてくれるのが、言葉だ。」<『空中ブランコ』>

 「人間の宝物は言葉だ。一瞬にして人を立ち直らせてくれるのが、言葉だ。」
  —『空中ブランコ』/ 奥田 英朗

 数年前に読んだ小説の中の一節です。
 
 僕は、本を読んでいて心に響いた言葉、共感した言葉を一冊のノートに書き留めています。心の中が少し乱れているな、と感じたときにぱらぱらとページをめくっていると、心が落ち着きます。人は、同じようなことで何度も悩むものです。だから、過去に悩んでいた自分に響いた言葉は、その後の人生においても大切な言葉になると僕は思っています。
 今日このノートを開いて、目にとまったのが冒頭の文章。ほんの数行の言葉が、人を立ち直らせることがある。もちろん、言葉が人を傷つけることもある。言葉というものがあるせいで、人の悩みも生まれるのだと感じることもあります。ただし、普通に生活していれば、言葉から逃れることはできません。だったら、少しでも人の力になるような言葉を使う人間でありたい。そういう想いで、このブログの記事も書いていきたいと思いました。
 

2015年7月19日日曜日

「読書は学問の術なり、学問は事をなすの術なり。」<『学問のすすめ』>

 Ich glaube, man sollte überhaupt nur solche Bücher lesen, die einen beißen und stechen. 
 - Franz Kafka
 「人に噛みつき、刺すような本を読むべきだと思う。」

 ドイツの作家カフカの言葉。『変身』という作品が有名で、読んだことがある人もいるかもしれません。

 僕の生活に読書は欠かせません。ドイツにやってきた当初は、ドイツ語の勉強にほとんどの時間を費やしていました。ドイツ語の本も苦労しながら読めるようにはなってきましたが、どうしても内容より分からない単語や文法に意識がいってしまいます。日本語の本を読まないと、自分の考えの幅がなかなか広がらないことに気づき、ここ最近は読書の時間を確保するようにしています。
 読書する際に大切なのは、「どんな本を読むか」。限られた時間を使って読む本ですから、できるだけ質の高い本を選びたいものです。僕が本を選ぶ基準にしたいと思ったのが、冒頭のカフカの言葉です。つい最近読み始めた『ツァラトゥストラはこう言った』という本があります。すらすらと読めるわけでもなければ、内容を全て理解できるわけでもない。それでも、読んでいると、心のどこかに「噛みつき」、「刺」さってくる。めったにできる体験ではありません。

 ただし、考え方や知識の幅を広げるために読書は欠かせないものではありますが、その読書が読書のままで終わってしまってはいけないと思います。福沢諭吉も『学問のすすめ』の中で、こう言っています。

人の勇力はただ読書のみによりて得べきものにあらず。読書は学問の術なり、学問は事をなすの術なり。実地に接して事に慣るるにあらざればけっして勇力を生ずべからず。」

 
 読書はあくまでも学問の方法の一つであり、その学問もまた、実際に何かを実行するための手段なのです。書物から得た知識や、読書を通じて考えたこと、感じたことを、実地にいかに生かすか。頭の片隅にこういう意識を置いておくことで、読書から得られるものの大きさが変わってきます。

 ツァラトゥストラはこう言った』はまだ通読まで至っていませんが、この本を読んでいて僕なりに思ったことがあります。それは、本当に心に噛みつき、刺さるような本を読み、そのときに感じることというのは、簡単に言葉にはならないということです。感想を求められても、その場ですぐには言い表せない。
 「言葉にならないものを心の中に残す本」。これは、僕なりの「面白い本」の基準の一つです。