2015年8月4日火曜日

4冊目 心の声が聴こえる 『Herzenstimmen』/ JAN-PHILIPP SENDKER

 ドイツ語本100冊読破に向けた3冊目は、『Herzenstimmen』/ JAN-PHILIPP SENDKER という本です。日本語にすると、『心の声』。早速あらすじと、僕の心に響いた言葉を紹介します。


 <あらすじ>


 ユリアが違う人間になってビルマから戻ってきたあの日から10年の月日が流れた。父親を探すための旅で兄を見つけたユリアは、美しい愛の物語に心を満たされた。しかし、ニューヨークの法律事務所で弁護士としてのキャリアを築く10年という時間の中で、慌ただしい西洋の生活に再び引きずり込まれてしまう。そんなある日、ビルマで暮らす兄ウ•バから謎めいた手紙が届く。当時の思い出がよみがえり、愛と命についての教えをいつのまにか忘れてしまっていたことに気づくユリア。この兄からの手紙を読んで以来、不思議なことがおこる。心の中から、聞き慣れない声が彼女の耳にささやきかけるようになったのだ。謎の声による問いかけはユリアを不安にし、また同時に深い郷愁の念を呼び起こす。正気を失うことに恐れを感じたユリアは、助けを求められるのはビルマにいる兄だけだと思い至る。自らの中にある二つの魂をしずめ、幸福を見つけるためには、内なる謎の声はどこからくるのか、その秘密を突き止めるしかない。



  Sie überlegte. „Dann bleibst du ganz ruhig und sagst ihr, dass sie warten muss.“ Ich seufzte. „Sie hört nicht auf mich.“ „Dann ist das eben so.“ „Amy!“ Warum verstand sie mich nicht? „Ich kann es mir nicht leisten, so die Kontrolle zu verlieren. Ich muss funktionieren. Ich male keine Bilder. Ich habe nicht die Wahl.“ „Die haben wir immer.“ Es gab nichts, worüber wir uns leidenschaftlicher streiten konnten. Sie gehörte nicht zu den Menschen, die äußere Zwänge akzeptieren. Für Amy waren wir alle für unser Schicksal selbst verantwortlich. Ausnahmslos. Alles, was wir taten, hatte Konsequenzen. Und für diese waren wir verantwortlich. Wir hatten die Wahl. Ja oder Nein. Das Leben ist zu kurz für Umwege.
 Wer einen Traum hat, muss ihn Leben.

 

 考え込んだあと、彼女は言った。「そうなったとしても、落ち着いて、少し待ってくれるように言えばいいのよ。」 ため息をつきながら私は答えた。「私の話には耳を貸してくれないもの。」 「じゃあどうしようもないわね。」 「アミー!」どうして私のことをわかってくれないの。「我を失うわけにはいかないの。役目を果たさないといけないの。私は絵描きじゃない。私には選択肢がないのよ。」 「選択肢なら、私たちはいつも持ってるわ。」 これは、私とアミーの間でなによりも激しく衝突するテーマだ。アミーは、外部からの束縛を受け入れるタイプの人間ではない。彼女の考えでは、私たち自身が自らの運命を握っているという。一人として例外はいない。 行動には何らかの結果が伴う。そしてその結果の責任を追うのは、私たち自身なのだという。私たちはいつも、“はい”か“いいえ”のどちらかを選んでいるのだと。 人生は短く、回り道をしている暇などない。 夢があるのなら、夢に生きるべきだ。



 謎の声が聞こえるようになったユリアが、友人のアミーに相談する場面での言葉。自分の行動は自分で決める。その結果に責任を持つ。自由に生きる上でも、責任は誰もが追うもの。大事なことに気づかされました。




 Wir haben die Kraft, uns zu ändern. Wir sind nicht dazu verurteilt, zu bleiben, wie wir sind. Dabei kann uns niemand helfen, nur wir selbst. 

  私たちには、変わる力が備わっている。今の自分のままであり続ける必要はない。ただし、誰も助けてはくれない。変わるのは自分自身だ。



  „Wir sind nicht nur für unsere Taten verantwortlich, sondern auch für das, was wir nicht tun.“ 

  「私たちは、自分の行動だけに責任を追うわけじゃない。“何かをしない”ということに対しても責任があるんだよ。」





Sie hatte Träume, keine Pläne. Sie konnte sich vorstellen, Kunstgeschichte zu studieren. Oder Literaturwissenschaft. Schauspiel. Oder Lehrerin zu werden. Sie konnte sich vieles vorstellen. Die Welt stand ihr offen. Das war das Problem. Eines von vielen.
 Das Leben kannte so viele Wendungen. Die Vielzahl der Möglichkeiten war verwirrend. Sie war jung und suchte Rat. Eine ruhige, starke Hand, die ihr die Richtung wies. Sie sehnte sich nach einem Kompass. Ihre Nadel drehte sich fortwährend im Kreis. Was sie bekam, waren Vorschläge. Angebote. Unverbindlich und nicht hilfreich. Am Ende eines jeden Gesprächs stand immer derselbe Satz: Das musst du selber wissen. Wenn sie es wüsste, hätte sie nicht gefragt. Sie hätte sich Zeit nehmen können. Etwas ausprobieren. Sie hätte sich auf die Suche begeben können. Sie wusste nur nicht, wonach, und wollte nichts beginnen, wenn sie keine Vorstellung hatte, wie sie endete. Sie hasste Überraschungen. Das Unerwartete gehörte nicht zu ihren Freunden. Schon damals nicht. Sie stand nicht unter Druck. Nicht von außen. Es war der von innen, dem sie sich am schwersten widersetzen konnte. Am Ende entschloss sie sich für das Naheliegendste. Wie so oft. Trat in Fußstapfen, die ihr nicht passten.
 Nicht weil sie zu groß waren. Oder zu klein. Die Form lag ihr nicht. Sie studieren Jura. Ohne große Leidenschaft, aber mit Erfolg. Sie richtete sich ein in einem Leben, das ihr vertraut war – und trotzdem nicht das ihre. Sie funktionierte. Sie verbrachte keinen Tag in abgedunkelten Schlafzimmern. Nicht einen. Sie nahm keine Tabletten. Darauf war sie stolz. Die Vielzahl der Möglichkeiten hatte sie erfolgreich reduziert.
 Am Ende hatte sie Pläne, keine Träume. 

  彼女には夢があった。でも、計画なんてなかった。 大学で芸術史を勉強する姿を思い描いていた。もしくは文学か演劇。教師になるのもいい。 多くの理想を抱いていた。世界は開かれていた。何を勉強するかなんて、たくさんある問題のうちの一つでしかなかった。 人生には方向転換がつきものだ。溢れるほどの可能性に頭が混乱しそうになる。若い頃の彼女は助言を求めた。進む方向を指し示してくれる、静かで力強い手がどこかにあるはずだと。絶え間なく回り続けるコンパスを探し求めた。 そんな彼女に与えられたもの。それは、提案だった。どこかそっけなく、彼女の助けになるようなものではなかった。 誰と話をしても、必ず最後に出てくる言葉。「自分の道は自分で見つけるしかないんだよ。」 自分の道がわかっているのなら、誰かに聞いたりしない。 何かに挑戦するためにかける時間はあった。何かを探求する道もあったはずだ。ただ、その“何か”が何なのかが彼女には分からなかった。進んだ先の終着点が見えない、そんな理想を追いかけることはしたくなかった。予想できないことが、彼女は好きではなかった。子供のころにはすでに、予期せぬ出来事を敵視するようになっていた。 外からの圧力にさらされていたわけではない。彼女にとって最大の敵。それは自分自身の、内側からの圧力だった。 最終的に彼女が下した決断は、しごくもっともに思えるものだった。よくあることだ。 彼女自身のものではない、すでにある足跡を追うことにした。 その足跡が、大きすぎたわけでも、小さすぎたわけでもない。ただ、彼女の足にぴったり合う形ではなかった。 大学では、とくに好きでもない法律を専攻した。しかし、それなりの成功はおさめた。生活にも慣れ親しんでいった。−しかし、彼女自身の人生とはいえないものだった。 与えられた役目はきちんと果たしていた。 暗い寝室で過ごしたことなど、ただの一日もない。 錠剤に手を出したことはない。これは彼女にとって自慢でもあった。 無数の可能性を絞り込むことに成功した。 その結果、彼女には計画ができた。でも、そこに夢はなかった。



 無限にある可能性から何かを選択する過程の苦しさと、その苦しさのために多くの人が選んでしまう”自分自身のものではない人生”。ユリアが辿ってきた道のりがぎゅっとまとめられている部分で、とくに気に入った部分です。



Ihre Augen strahlten. Ich begriff, dass für sie jedes neue Wort nicht einfach eine Vokabel war. Es war ein Geschenk, kostbar und einmalig. Eines, das man pflegen und bewahren musste, deshalb sahen wir sie auch so oft Vokabeln wiederholen. Eines, das ihr half, eine neue Tür zu öffnen oder ein Fenster, ihr eine fremde Welt zu erschließen, mit mir zu kommunizieren.
 

 彼女の目は輝いていた。彼女にとって、新しい単語は単なる語彙の一つではないことに気づいた。贈り物なんだ。大切で、他のものとは比べられない贈り物。世話をして、守ってあげないといけない贈り物。だから彼女は覚えた言葉を何度も何度も繰り返すんだ。彼女にとって新しく覚える単語は、未知の世界への扉を開く鍵であり、私という人間とコミュニケーションをとるための窓なんだ。



 ユリアがビルマの子供たちに英語を教える中で、言葉の意味に気づく場面。ただ点数のために単語を覚えるのではなく、新しい世界を知るため、より多くの人とコミュニケーションをとるために言葉を学ぶ。外国語を学ぶ者として、この子供のような気持ちで言葉と向かい合いたいと思いました。





 仕事や勉強、家族。せわしなく過ごす日々の中で、自分自身の声に耳を傾ける時間はほとんどないという人が多いのではないでしょうか。
 翻訳したいくつかの引用文を読み、また本のタイトルからも分かるように、この本の中心は「心の声」です。周りの声を聞くばかりで、いつの間にか自らの心の声を忘れてしまった主人公のユリア。ある日突然聞こえてくるようになった謎の声の秘密を突き止めるべく、10年来合っていない兄の暮らすビルマへの旅に出ます。
 徐々に明らかになる、謎の声の正体。様々な出会いによって少しずつ変化していくユリアの心。ストーリー自体も面白いのですが、ユリアの心に影響を与える数々の言葉に、思わずページをめくる手を止めて考えさせられながら、読了しました。
 旅の末にユリアが下す決断に力をもらいました。
 なんとなく過ぎていく日常を見つめ直す。そんな機会を与えてくれる小説。是非多くの人に読んでほしい物語です。

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